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大阪地方裁判所 昭和63年(ヨ)426号 決定

申請人

塩田健一

塩田健三

大口彰子

右三名訴訟代理人弁護士

天野一夫

天野実

天野陽子

被申請人

カネナカ株式会社

右代表者代表取締役

中本千代子

右訴訟代理人弁護士

岩田喜好

主文

一  被申請人は、申請人塩田健一及び同塩田健三に対し、別紙物件目録一記載の土地上に建築中の同目録二記載の建物の三階部分のうち、北側及び北東側の二戸分(別紙図面(一)中の赤斜線表示部分)の建築工事をしてはならない。但し、右申請人らが被申請人に対し一括して金一五〇万円の保証を立てることを条件とする。

二  申請人塩田健一及び同塩田健三の本件その余の申請を却下する。

三  申請人大口彰子の申請を却下する。

四  申請費用は、申請人塩田健一及び同塩田健三と被申請人との間においては、右申請人らに生じた費用と被申請人に生じた費用の二分の一とを合算したものを二分し、それぞれ被申請人及び右申請人らの負担とし、申請人大口彰子と被申請人との間においては、右申請人に生じた費用と被申請人に生じた費用の二分の一とを全部右申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一申請の趣旨

被申請人は、別紙物件目録一記載の土地上に建築予定の同目録二記載の建物の建築工事に着手してはならない。

二申請の趣旨に対する答弁

本件申請をいずれも却下する。

第二疎明された事実

当事者間に争いのない事実、疎明資料及び審尋の結果によれば、次の事実が一応認められる。

一当事者

1  申請人塩田健一及び同塩田健三(以下塩田らという。)は、別紙物件目録三記載の土地及び同地上の同目録四記載の建物(以下塩田建物という。)を共有し、家族とともに同建物に居住している。

2  同大口彰子(以下大口という。)は、別紙物件目録五記載の土地及び同地上の同目録六記載の建物(以下大口建物という。)を所有し、家族とともに同建物に居住している。

3  被申請人は、昭和六二年四月に、大口方のほぼ西南西に位置し、塩田ら方のほぼ南西に隣接する別紙物件目録一記載の土地(以下本件土地という。)を買い受け、申請人ら建物の敷地より約1.6メートル高いその地盤を0.5メートル堀り下げたうえ、同地上に別紙物件目録二記載の建物(以下カネナカ建物という。)を建築しようとしている。

二本件土地の地域性及び付近の状況等〈以下①事件と同一部分省略〉

3 本件土地も、もとは、その北西に隣接する別紙物件目録七記載の土地(以下本件七の土地という。)とともに一筆の土地を形成し、その地上には二階建の一戸建建物(以下旧建物という。)が一棟建築されていたのであつて、従前は良好な街並の一画を形成していたものであるところ、昭和六二年四月に分筆され、昭和六三年一月二六日に本件七の土地上に申請外一栄住宅株式会社(以下一栄住宅という。)により別紙物件目録八記載の建物(以下一栄建物という。)がその建築に着手され、カネナカ建物も近々に建築工事に着手することが予定されているのであつて、これらの建物がそのまま建築されたとすれば、本件付近ではあまり見られない中層の営利を目的とする共同住宅が一挙に二棟できることとなる。

三日照被害の状況〈①事件と同一部分省略〉

四被申請人による設計変更

一栄住宅は、昭和六二年七月ころから本件土地の付近住民との折衝を開始し、その過程において、一栄建物の建築計画を若干変更したが、被申請人も、右の経過を受けて、本件土地の表面を0.5メートル削り取り、その分地盤を低くし、建物の高さも0.5メートル低くするとの設計変更をすることとした。

第三当裁判所の判断

一受忍限度について〈①事件と同一部分省略〉

3  ところで、カネナカ建物は設計変更後も高さが9.458メートルあるが、わずかに一〇メートルを下回つているので、建築基準法五六条の二の日影による高さの制限から外れているとして日影についての配慮がなされていないものであるところ、その敷地は申請人ら建物の敷地より本来は約1.6メートルも高いこと、付近の地形、域内道路の狭さ、街区の狭さ、街区の宅地面積等からみれば、本件土地付近は低層住宅地に適した地であり、将来的にもその大幅な変更があるとは予想され難いこと及び日照利益の重大性を考えれば、申請人らとしては、本件土地上に営利目的の共同住宅を建築せんとする被申請人に対し、陽光の恵みの豊かな午前一〇時ころから午後三時ころまでの時間帯において少くとも約二時間三〇分程度の日照の利益確保を求めることはできるというべきであり、申請人らの建物が若干本件土地の側へ寄つていることを考慮しても、この限度であれば一申請人らの要求は公平の観念に照らして不当なものとなるものではない。従つて、右の限度を越える日照の阻害は申請人らの受忍限度を越えるものと認めるのが相当である。

二大口の申請について

前記疎明された事実によれば、大口建物の日照阻害は主として一栄建物によるものであつて、カネナカ建物の建築によつては午前一〇時から午後三時までのうちの二時間三〇分程度の日照利益の享受は阻害されてはいない。よつて、大口は被申請人に対してカネナカ建物の設計変更等を求めることはできない。

三塩田らの申請について

1  これに対し、塩田建物は、カネナカ建物の建築により前記基準による日照利益の確保ができないこととなる(物干部分については何とか前記基準に適合しているかにもみえるが、これはわずかでも日照が得られる限り、日照利益ありとしたからであり、カネナカ建物による日照阻害は北所有の建物による日影が終了したころからこれを追いかける形でもたらされていること、⑥の窓、⑦の窓はカネナカ建物の建築によつてほぼ終日日影に近くなるものであること等を考えれば、これは受忍限度を超えていると判断すべきである。)が、本件疎明資料によれば、カネナカ建物のうち塩田建物に対して重大な日照被害を与えているのは北側の部分であることが明らかであり、かつ、三階北側及び北東側の二戸を削除することにより、物干場のみならず、⑦の窓についても午前一〇時ころから午後三時ころまでの間で二時間三〇分以上の日照が確保されることが一応推認される。そして、日照利益の重大性を考えれば、被申請人としてはこの程度の不利益は甘受すべきものである。よつて、塩田らには、被申請人に対し、この限度でカネナカ建物の設計変更を求める権利がある。

2  被申請人がカネナカ建物の三階の北東側の一部を削減する設計変更案を拒絶していることは審尋の結果から明らかであり、このままではカネナカ建物が着工、完成されて、塩田らに回復し難い損害が生ずるおそれがあるので、これを避けるためには被申請人に対し1記載の建物部分の建築を禁止する必要がある。

3  カネナカ建物の設計変更の必要その他諸般の事情を考慮すると、右建築禁止を命ずるにあたつて、塩田らには被申請人に対し一括して金一五〇万円の保証を立てさせるのが相当である。

四結論

以上の次第で、塩田らの本件仮処分申請は主文第一項の限度で理由があるから被申請人に対し一括して金一五〇万円の保証を立てさせることを条件としてその範囲でこれを認容し、塩田らのその余の申請及び大口の申請はいずれも失当としてこれを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文及び九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官藤本久俊)

別紙物件目録

一 所在 豊中市刀根山二丁目

地番 二二五番の三

地目 宅地

地積 155.41平方メートル

二 用途 共同住宅

構造 鉄骨造カラーベスト葺三階建

敷地面積 155.41平方メートル

床面積 一階 83.14平方メートル

二階 83.76平方メートル

三階 70.71平方メートル

三 所在 豊中市刀根山二丁目

地番 二〇四番四

地目 宅地

地積 109.75平方メートル

四 所在 豊中市刀根山二丁目二〇四番地の四、三一七番地の七

家屋番号 二〇四番四

種類 居宅

構造 木造瓦葺及一部亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階 57.13平方メートル

二階 41.40平方メートル

五 所在 豊中市刀根山二丁目

地番 三一七番一七

地目 宅地

地積 94.63平方メートル

六 所在 豊中市刀根山二丁目三一七番地の一七

家屋番号 三一七番一七

種類 居宅

構造 木造ストレート葺二階建

床面積 一階 38.74平方メートル

二階 32.70平方メートル

七 所在 豊中市刀根山二丁目

地番 二二五番一一

地目 宅地

地積 116.81平方メートル

八 用途 共同住宅

構造 鉄骨造カラーベスト葺三階建

敷地面積 116.81平方メートル

床面積 一階 67.083平方メートル

二階 66.225平方メートル

三階 61.868平方メートル

別紙図面(一)、(二)〈省略〉

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